日本産アザミの分布と分化
〜 その分類学上の問題点 〜
国立科学博物館植物研究部 門田裕一(2000.2.19 会津若松)

 

I. はじめに



 日本産アザミ属(キク科)には80種近くがあり、まだ20種以上の種が未記載のまま残されている。アザミ属は地球上に約300種があると考えられているので、日本には世界の1/3が分布していることになる。しかしアジア大陸と共通するものは5種のみ(タカアザミ、チシマアザミ、ヤナギアザミ、シマアザミ、カラノアザミ=ノアザミの変種)で、残りのすべてが日本の固有種である。秋の山野を彩る草花として日本人に古くから親しまれているアザミだが、このことは種類数の上からも、日本列島は世界の分布と分化の中心の一つであることと深い関係があるといえそうだ。

 アザミ属植物はまた分類が困難な植物群としても知られている。亜熱帯の海岸から寒帯の高山までという、幅広い生育環境に生育するともに、これに呼応して幅の広い形態的変異を示す。また、分類の難しさに自然雑種形成が関与していることも見逃せない。このようなプロフィルをもったアザミ属であるが、ここでは植物分類学の観点から問題点を提出し、その解析の結果を紹介する。

 

II. アザミ属の分類形質



★形態的形質に関する述語 茎葉/根生葉/頭花/総苞/総苞片/腺体/小花/冠毛/痩果

・花の咲いている時期に葉はどうなっているか?
 →根生葉は花期に残っているかどうか

・葉の形や大きさ、切れ込みの深さはどうか、葉の基部が茎を抱くかどうか

・花(頭花)の大きさと咲き方
 →上向きに咲くかあるいは下(点頭)〜横向きに咲くか

・総苞の大きさと形 椀形/広鐘形/鐘形/狭筒形

・総苞片の列の数→総苞の形と密接な関係のあることが多い

・総苞は粘るかどうか→総苞片の背軸側中肋に存在する腺体の有無そして形

・総苞片の伸長方向→圧着/斜上/反曲

・小花の大きさと形 小花の裂片/広筒部/狭筒部/とくに広筒部と狭筒部の比率

・痩果の大きさと形、発芽率と発芽様式?

・冠毛の色と長さ→アザミ属では冠毛は風散布の役に立っていない?

●アザミ属の花柱→花柱分枝が開かない!?

 

III. ケーススタディ
 
〜 植物分類学から見たアザミ属植物の問題点とその解析の結果 〜



1. 最近新種として発表されたアザミたち

○リシリアザミ 1998年に発表された利尻島固有の新種。頭花を直立させて咲かせるのが特徴。この島にはチシマアザミが多いが、チシマアザミは頭花を点頭させて咲かせるのではっきりと区別される。利尻島の山岳地帯ではなく、海岸草原に特産するため、これまで見過ごされていたものと考えられる。

○ヒダカアザミ 1999年に発表された北海道・日高山脈固有のアザミ。やはりチシマアザミと混同されてきたものと思われるが、茎葉がほとんど切れ込まず、赤黒い花を咲かせるのが特徴。

○ザオウアザミ 1999年に発表された蔵王山のブナ帯上部の特産。頭花は点頭し、総苞片は6列。腺体はある方が普通。 頭花が直立するミネアザミとは全く関係はない。

 

2. 本州中部山岳に分布する高山性のアザミたち(4倍体種の地理的分化)

●キソアザミについて 〜 高地性のアザミと低地性のアザミ 〜

 2-1 1912年、中井猛之進により、木曽御岳と「上松の草原」で採集された標本にもとづいて、キソアザミCirsium faurieiという種が記載・発表された。ホロタイプの指定がないため、これらはシンタイプとなり、1葉のレクトタイプが選定される必要がある。 →Type method

 2-2 1937年、北村四郎がキソアザミのレクトタイプの選定を行った。彼の選んだレクトタイプは種形容語(種小名)のfaurieiに基づき、フォーリエが「上松の草原」で採集したものとした。そして彼はこの標本をトネアザミ(タイアザミ)と同定し、結局キソアザミはトネアザミの異名として扱った。

 2-3 しかし、トネアザミは中型の頭花を数多く着ける低地性のアザミであり、門田は中井の描いたキソアザミとは大型の頭花を少数個着ける高山性のアザミであろうと推定した。

 2-4 そこでフォーリエがとったルートを辿り、上松から木曽駒ヶ岳にかけて調査を実施した。その結果、キソアザミのタイプ標本に似た個体は、標高2600 m付近から始まる高山帯に数多く見出された。そしてトネアザミの形は、登山口にあたる山麓部に見出された。

★結論 キソアザミは木曽駒ヶ岳の上部に生育する高山性のアザミであり、木曽駒ヶ岳の他に御岳、乗鞍岳、そして北アルプスの中部以南の地域に分布域をもつことが明らかになった。

●ヤツガタケアザミについて 〜 腺体の構造と分類形質としての意義 〜

 3-1 八ヶ岳とその周辺にはヤツガタケアザミが分布し、これはナンブアザミ─トネアザミ群のアザミとされてきた。

 3-2 タイプ標本を注意深く検討した結果、総苞には腺体が認められ、総苞が粘ると考えられた。しかし八ヶ岳に広く分布する「ヤツガタケアザミ」とされてきたものは、腺体を欠き、総苞は全く粘着しない。また、頭花を構成する小花の形質に関しても有意な差が認められた。つまり、これらは本当のヤツガタケアザミではない。これらを新種と認め、ヤツタカネアザミの新名を与えた。

 3-3 本当のヤツガタケアザミを求めて、日光や尾瀬を中心とした地域で探索を続けてきたが、1999年現在で未だに見つかっていない。

 

3. 日本固有のアザミ、カガノアザミ群(2倍体種の地理的分化)

○カガノアザミ群は次のような特徴をもっている:

 A 花期に根生葉が生存せず,茎の中部以下に大型の茎葉をもつ;
  茎は上部でよく分枝する

 B 頭花は大型の総状花序に多数着き、狭筒形、下向きに咲く

 C 2n=2x=34の2倍体種である

 D ブナ帯域を生活の場としている

 E とくに本州で著しい地理的な種分化を遂げている

○未記載のものが数多く発見されている。

★現代的な解析の方法

○染色体やDNAに関する解析

 →核型解析/蛍光染色法
  ribosomal DNAを特異的に染色する/DNAの塩基配列

○化学成分に関する解析

 →フラボノイド(二次代謝産物)・パターンの解析

 →自然雑種形成が起こっていることを立証できると期待される。

 

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