この講座は、当初は、大学の入学試験シーズン(2月を中心に1−3月)に毎年12〜17日間ずつ開講されました。ただし、平成5年度は当館植物研究部の新宿分館から筑波学園都市への移転準備のため、例外的に6日間でした。通常は週3日間(水・木・金曜日)で,午前中10〜12時半に講義、午後1時半〜4時半に顕微鏡観察を中心とした観察実習を行うことを目安としました。昭和63年から開講したのは、この年に科博新宿分館に研修研究館が完成し、実習室や顕微鏡などの備品が従来に比べて質的・量的に、格段に整ったことが最も大きな理由でした。
さて、次は講義・実習の講師陣の確保です。科博の植物研究部の菌類担当の研究員だけで菌類のすべての分類群を講義し実習指導することは、菌類界の所帯の大きさから到底不可能です。そこで、このような講座の講師を引き受けて頂けそうな館外の菌類研究者に打診したところ、予想外の賛同と快諾を得ました。そこで、これらの賛同者で菌学教育研究会という団体を結成し、この研究会を本講座の母体とすることになりました。
講義風景
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これらの講師の方々の多くは、菌類分類の専門家というよりは、彼等の本来の応用研究や生態学的研究に必要な菌類分類群を必要に迫られて自分で分類研究している研究者です。言い換えれば、分類同定を依頼できる分類専門家がわが国には不在で、応用研究や生態学的研究のために、自ら分類も研究せざるをえないという立場の研究者たちです。講師の中には、いわゆるアマチュア研究者も含まれています。その一例を挙げますと、腹菌類の講師を長期にわたって担当頂いている吉見昭一先生は、もと小学校の校長で、小学校で菌類を生徒たちの教育の材料として用いて指導されたと同時に、吉見昭一先生が特に興味を持たれた腹菌類の分類を主に自宅で研究されてきた方です。現在日本には腹菌類の分類の専門家は彼しかいません。
ところで、講師の方々の中には、職場では2月頃が最も忙しいため、他の時期なら引き受けられるという方々がおられました。そこで、平成9年度から前期として6月初旬、後期として従来通り2月を中心に開催することとしました。2月の開催については、中学・高校の先生方から、受験・進学のための書類準備などで忙しく、受講できないので開催時期を変更してほしい、という強い要望がありましたが、夏休みは子供向けの催物が多いこともあり、他に適当な時期がなく、やむなく2月中心の後期講座を続けています。
講座の内容は、当初は菌類の最新の分類学・系統学の情報に則った各分類群の詳しい各論を優先しました。これに菌類の自然史、系統進化、応用面、教育面などを盛り込んだ概論と顕微鏡の使い方の講習の日を加えました。最近は分類学の新しい研究方法・技術の進展に伴い、菌類分子系統学の講座を加えています。同時に、日本各地の菌類の分布の特性を紹介するために、日本各地の地元の研究者による各地域の菌類の紹介を加えました。この2つの講座の間には何の関係も無いように見えますが、面白いことに、菌類分子系統学の研究には、
DNAの抽出に必要な新鮮な菌類標本が必要で、そのための菌類標本の採集には、菌類の分布する地域や、そこでのキノコやカビの発生時期に詳しい地元の研究者の協力が大変役に立ちます。菌類分子系統学の論文には、そのような地元の菌類の発生に詳しい菌類愛好者・研究者が重要な共著者となっている例が少なくありません。
日本各地の菌類を紹介する講座の日は、菌類同好者の受講も多く、情報交換の場としても賑やかです。菌類同好者の方々の講座の準備に対するボランティアとしての協力も年々増えて、講座を準備する菌学教育研究会の係は大変助かっています。
実習風景
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ところで、実は最初の4年間、この講座は科博の正式の普及・教育事業に入っていませんでした。それは、多分、当時の科博の普及・教育事業は、今日とは多少異なり、このような専門講座と名づけられるような企画は、国立科学博物館の催物としては必ずしも歓迎されてはいなかったこと、そして、菌類分類学のように大学その他の研究・教育機関には本格的な講座がないために、自然史研究センターとしての科博で企画し開講する必要のあるような自然史の分野は、他分野にはほとんどなかったことによると思われます。
そのような状況下で、この菌類分類学講座は、当初は科博と菌学教育研究会の共催、そして平成2〜4年度は菌学教育研究会主催、科博後援、平成5・6年度は科博主催、菌学教育研究会後援という開催形態をとりました。平成2〜4年度については、事実上は菌学教育研究会が講座の開催できる場所を科博に借りている、という状況でした。平成5年度からは、科博の自然史教養講座の、次いで平成7年度からは自然史セミナーの正式の講座となりました。平成5年度からは、科博の催物に菌学教育研究会が協力しましょう、という形式になりました。この段階で菌類分類学講座はやっと科博の正式の教育・普及事業となったといえます。
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